2023.06/01日号|RESEARCH Conference 2023イベントレポート
●②freee株式会社 粟村倫久さん
●③Chatwork株式会社 仁科智子さん
●④Sansan株式会社 大泊杏奈さん・倉内香織里さん
●⑤株式会社グッドパッチ 米田真依さん
先週末の5/27に今年のリサーチカンファレンスが開催されました。業界の所属セクターの違いやリサーチ経験歴の新旧を超えてリサーチの実践知が語られるこの場を楽しみにしており、私も半日かぶりつきで視聴していました。
今回のレターでは、そのイベントレポートとして私がオンライン視聴したセッションの中で印象に残っていることをお届けします(※完全視聴は出来ていないので、正確にはイベントレポートというより個人的な感想メモです)
🔍リサーチハック 101(2023.6/1日号)
「RESEARCH Conference 2023イベントレポート」
●①atama plus株式会社 伊藤光生さん・河口康平さん
●②freee株式会社 粟村倫久さん
●③Chatwork株式会社 仁科智子さん
●④Sansan株式会社 大泊杏奈さん・倉内香織里さん
●⑤株式会社グッドパッチ 米田真依さん
※当日は手元でメモを取って聴講していたため、元の講演内容が完全体では表現できていない点はご了承ください。できるだけ各スピーカーの方の発信情報も記載するようにしていますので、詳細情報はそちらをご参照ください。
※セッションごとのツイートも運営者がまとめてくれています👇
※本文にボリュームがあるため、メールのプレビュー画面では途中までしか表示されない場合、最下部の「メッセージ全体を表示」押下いただくか、メールのタイトル領域をクリックいただくとウェブ版に遷移して本文全体をご覧いただけます。
●①atama plus株式会社 伊藤光生さん・河口康平さん
10:55-11:35
ユーザーに価値を届け続けるためのアジャイル開発とUXリサーチ
atama plus株式会社 伊藤光生 河口康平
アタマプラスからは、「デュアルトラックアジャイル」という速さや大きさの単位が異なる2つの手法から成るリサーチ体制が紹介されました。スクラムでプロダクト開発に取り組むためのエンジンとしてリサーチが搭載されているイメージ。
Discoverトラックでは探索目的で主に戦略~構造段階に、Deliverトラックでは実装用途で主に構造~表層段階に、それぞれ対応させているとのこと。詳細は企業公式アカウントからスライドが公開されているので、そちらをご参照ください。
この枠組みでのリサーチはスプリントのバックログに基づいて、不確実性が高い課題やクリティカルな要素に対して行われているようです。リサーチを行う時のスコープや対応範囲が決まっていることで、より早く動き出せそうですね。
atama plusさんのデュアルトラックアジャイルのお話。
DiscoverとDeliverそれぞれのトラックで、
メンバーとおおよその調査スコープが定義されていることも
アジャイルのスピード感を支える大きな要因になっていそう🤔
枠組みをゼロから企画するわけではない環境設定、だいじ!
実際、質疑応答でも注目が集まったのが、Day1からリクルーティングが行われているということについてでした。これは全国の顧客・生徒の協力網があることと、協力者を一気にではなく徐々に追加する運用により可能になっているそう。
同じく質疑応答で興味深かったのが「不確実性が解消されたと感じる基準」についての質問です。この返答には、「課題の確かさの確認(探索型)」「本当にお金を払って使ってもらえるか」「MVPが見えてきた状態」などが挙がりました。
会全体を通じてアジャイルの開発体制にリサーチを組み込む手法が語られており、アタマプラスさんはその最たる形態だったのですが、リサーチの実行基盤を安定させてスピードをコントロールするところに最大の要点があると感じました。
●②freee株式会社 粟村倫久さん
11:55-12:35
freeeのデザインリサーチのこれまでとこれから
freee株式会社 粟村倫久
freeeからはこれまでのデザインリサーチ活動を総括する形で、立ち上げ~普及期、拡大期~定着期、それぞれにおいて直面した課題、それを乗り越えるための施策など、リサーチ機能を上手く活かすための組織運営が語られました。
スピーカーの粟村さんがResearchOpsマネージャーをされていることがお話に厚みをもたらしており、freeeではなんと立ち上げ~普及期の2年ほどでResearchOpsの重要性を認識して、その後、専門スタッフが活躍しているとのこと。
freeeのResearchOps体制
・リサーチを特別視しない
・リサーチセンター型ではなく分散型で業務担当者ごとに取り組む
→初期からResearchOpsを推進/専門スタッフが実査環境をサポート
スタートから2年くらいで既にOpsの重要性を認識してしているの、早い…!
講演内容から、改善活動を大量に行う組織におけるResearchOpsの有効性を感じました。アポ・謝礼などの環境整備は役割分担できているため、社内では初期からリサーチを特別視することなく各業務担当者が集中できているそう。
リサーチを行う実行体制は、PM・デザイナー・カスタマーサクセス・エンジニア・アナリティクスなどの職種間連携が標準になっており、ユーザーの行動観察の結果を共通言語として探索・企画・設計ができているとのことでした。
成長ステージごとのリサーチ業務課題もリアル。普及期に起きる業務の儀式化や効果の実感が下がる現象はユーザーテスト中心の運営ではあるあるですし、定着期に起きるユーザーへの調査アプローチ渋滞も私も数度体験しました。
全体を通じて、調査の運営スタイルは内製型・分散型で調査目的のメインは改善活動という枠組みは、プロダクト運営を行っている多くの組織に当てはまる内容で、なぜResearchOpsが必要なのかを知るのに格好の学びになりました。
●③Chatwork株式会社 仁科智子さん
13:00-14:00
組織に合わせたUXリサーチ浸透の取り組み
Chatwork株式会社 仁科智子
スポンサーセッションでは、チャットワークのUXリサーチチームでリーダーをされている仁科さんのお話が特に印象的でした。時間は10分弱のスピーチながらも、リサーチ組織の社内支援体制はどうあるべきか、気づきをいただきました。
チャットワークのUXリサーチチームでは、UXリサーチの活動起点に「ターゲットとなるデザイナーを理解する」ことを掲げており、相対部門(支援対象)であるデザイナーの業務フローを基準に調査の活動を位置づけるようにしています。
Chatwork UXリサーチチーム リーダー仁科さん
「ターゲットとなるデザイナーを理解する」
デザイナー側の「UXリサーチの実施タイミングがわからない」課題に対して、
PRDに紐づくデザイナーの業務フローの中で調査を実施するタイミングを明記
相対部門の業務プロセスの理解、だいじ!
機能組織として活動する場合、依頼を受ける相手からいかに相談を引き出すかが重要になりますが、PRDに紐づく形でユーザー調査を実施するタイミングを示すようにされているのを見て、プロセス管理における可視化の力を感じました。
当日の資料はスピーカーを務めた仁科さんのnoteで公開されています。チャットワークのプロダクトデザイン部のnoteでも、ユーザビリティ調査やエキスパートレビューなど専門性が高い調査手法の記事をアップされており、目が離せません👀
●④Sansan株式会社 大泊杏奈さん・倉内香織里さん
14:45-15:05
0からスタートしたリサーチ組織の立ち上げ。開発現場でリサーチが当たり前に行われるようになるまでの歴史
Sansan株式会社 大泊杏奈 倉内香織里
Sansanからはマーケティングリサーチ会社出身のお二人がUXリサーチセンター(機能組織)を立ち上げるお話が共有されました。会全体を通じたセッションの中でも、マルチプロダクトを運営する組織の取り組みとして稀少な内容でした。
というのも、UXリサーチの成功例として聞こえてくる事例はスタートアップが圧倒的に多い中で、既に一定の認知や規模があり、プロダクトごとにサービス特性も異なるSansanの事例は大企業で参照しやすいバックグラウンドだからです。
UXリサーチセンターは、独立した機能組織として事業部門と連携しつつ、開発部門を助けるポジションを担っています。このポジションを保つために重視している概念が、「ミッション(ポリシー)」と「OKR(業務の目標設定)」です。
SansanUXリサーチセンターの取り組み👩🔧
独立した機能組織として事業部門と連携
*ミッション
・定量定性の両側面
・客観的な視点・中立的な立場
・プロダクトの意思決定
*OKRの変遷
・案件本数
・質(事業部長の評価)
・スピード(8営業日内)
ミッションには、①定量定性の両側面を扱う、②客観的な視点・中立的な立場を保つ、③プロダクトの意思決定に貢献する、この3つを掲げています。いずれも大企業で求められる業務要件を遂行するために重要なポリシーですね(共感〜)。
OKRでは、①案件本数、②質(事業部長の評価)、③スピード(8営業日内)を設定しており、事業や組織の成長ステージに応じて変遷しているようです。スピードの話は公式noteの過去記事でも拝見していて、インパクトある取り組みでした。
Sansan UXリサーチセンターの取り組み
・意思決定用の調査に時間がかかる課題
・目標を12→8営業日に
・計画書をテンプレ化
調査部門を単独で成立させるOps
#リサーチハック
全リサーチを8日間でアウトプットする目標のために取り組んだことnote.com/sansan_uxrc/n/… 全リサーチを8日間でアウトプットする目標のために取り組んだこと|Sansan UXリサーチセンター公式note|note こんにちは。Sansan株式会社でUXリサーチャーをしている大泊です。 ここ最近、様々な会社のリサーチャーの皆様とお話す note.com
このほか、報告・共有の枠組みも充実しています。リサーチの情報発信を行うSlackチャンネルを開設し、調査結果の3行サマリ+リサーチャーの視点で投稿するという工夫をはじめ、社内での情報接点を増やす活動が積極的に行われています。
●⑤株式会社グッドパッチ 米田真依さん
15:05-15:25
探索型リサーチで広げるリサーチの価値
株式会社グッドパッチ 米田真依
グッドパッチからは昨年6月からサービス提供しているインサイトリサーチサービスを担当されている米田真依さんが登壇されました。日経クロストレンドの取材も記憶に新しい中、クライアントワークの要点を聞くことができました。
グッドパッチ米田真依さんの記事
・一緒に話を聞いて、一緒に解決する姿勢
・前後半に分けて情報分析する時間を確保
・未参加者も一次情報に触れる仕組み構築
このあたりの動きをよりリスペクトしたい✊
#リサーチハック
xtrend.nikkei.com/atcl/contents/… 元P&Gリサーチャーが挑む グッドパッチ探索型リサーチの舞台裏 デジタル領域に強みを持つデザインファームのグッドパッチは、2022年に新規事業創出・既存事業改善につなげる探索型リサーチ xtrend.nikkei.com
インサイトリサーチは2-3ヶ月間の伴走期間を標準とする探索型プロジェクトとなっています。一般的なリサーチ活動よりもやや長めの期間設定と、活動目的を探索に焦点を当てていることが特徴的です。(ここの紹介は秒でしたが笑)
サービスLPのメインビジュアル(海の中)はスキューバダイビングがモチーフだそうで、チームが隊列を組む時に先導役となるガイドの役割名称に倣って、GUIDEと呼ぶ5段階から成るリサーチのプロセスについて共有がありました。
スピーチ全体がリサーチプロジェクトのプロセス解説になっているように、調査の実施前と実施後、両方の作り込みに優れた内容で、そのうち私は(Untangle/アンタングル)と(Entrust/エントラスト)の工程が特に印象に残りました。
グッドパッチ インサイトリサーチャー米田真依さん
実施前と実施後、両方のプロセスの作り込み👏👏
(Untangle)
・フェーズの明確化(現況の言語化/可視化)
・既知の可視化(過去調査等)
(Entrust)
・レポート(思考のプロセスも入れる)
・巻き込みWS(追体験できる対話の場)
Untangleの工程では、わかっていること、わかっていないことを整理する(フェーズの明確化・既知の可視化)ことを目的としており、このような言語化・可視化の作業はとてもデザインリサーチらしいアプローチだと再認識しました。
Entrustは共有・報告に関する工程で、レポートには個票や思考のプロセスも入れること、巻き込みワークショップでは動画などでリサーチを追体験できる対話の場にすることなど、非実査同席者を意識した取り組みが共有されました。
お話全体を通じて、リサーチプロセスの中に活動スタイルやポリシーが織り込まれていて、活動内容が非常に構造化されているのが印象的でした。「受託」というより「伴走」であるために、実行者・支援者ともに参考になりますね!
●まとめ
2023年のリサーチカンファレンスは「SPREAD」がテーマでした。自分が聴講した複数のセッションを通じて、2つの大きな論点が立ち上がってくるのを感じました。それが「広がり」をもたらすうえでのキーになっていると考えます。
1つ目は、リサーチを運営する組織形態です。
リサーチを担う組織の形態は、中央集権型が良いか、分散型が良いか、という議論は以前から議論されてきました。もちろん最適解は組織ごとによって異なり、どちらの型を選ぶにしても、型が成功する要件を理解していることが重要です。
・中央集権
◎ツールや手法への習熟
▲予算や稼働の配分判断
・事業部制
◎事業との一体化
▲長期の能力開発
・ハイブリット
◎設計/分析/研修の安定
▲職責の不透明性
仮に同じ会社でもリサーチ体制を
都度チューニングする必要アリ✋
#リサーチハック
freeeでは分散型で各業務担当者が職種連携しながらユーザー調査を実行しており、それをResearchOps(リクルーティング・謝礼・Q&A・リポジトリなど)の充実によって全体の活動量や業務品質を担保している体制になっていました。
Sansanではリサーチの活動をUXリサーチセンターという機能組織として立ち上げ、事業部門からの依頼に対して独立体制を保って関与し、案件本数・質・スピードをOKRに設定することで調査業務の成果を計測する形になっていました。
2つ目は、リサーチを実行するプロセスです。
リサーチは支援部門・相対部門が行うプロジェクトへの貢献成果が求められます。その成果を十分高めるために、業務工程や開発手法の中にリサーチを位置づけることが重要であり、人間中心設計においても基本のモデルとされています。
どのようなリサーチプロセスで挑むか。
調査手法の理解度と経験則に照らして、
リサーチの姿勢もMVP的でありたい😌
グッドパッチではインサイトリサーチの活動をGUIDEと呼ぶ5段階のモデルに構造化していました。このプロセスの中に事前の過去調査確認やステークホルダーインタビューもあれば、事後の報告会・ワークショップも収まっていました。
atama plusではデュアルトラックアジャイルの手法によりスプリントに取り組んでいました。探索目的のDiscoverトラックでは戦略~構造段階に、実装用途のDeliverトラックでは構造~表層段階に、それぞれ対応させる運営になっています。
上記のいずれの論点も、デザインリサーチに本気で取り組み、成果を上げている方々のお話によってこそあらためて導かれたものでした。私もいち従事者として思考を深める機会をいただき、リサーチカンファレンス運営の皆様に感謝です!
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